What is a healthy diet ?

大学院に通う管理栄養士が美味しい楽しい話をゆるゆると更新します。

炭水化物は悪者なのか?

糖質制限が話題ですよね。コンビニに行っても糖質制限商品をたくさん見ます。

炭水化物おばけの私としては、炭水化物が悪者のような世の中の風潮には疑問ですし、何より悲しいなぁ、、、

 

少し前の話ですが、Lancetというジャーナルに「炭水化物の摂りすぎは死亡リスクを高めますよ」という論文が掲載されました。

タイトルは「Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study」

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32252-3/fulltext

アブストを読むと確かに炭水化物の摂りすぎは良くなさそう。しかも、「国際的な食事ガイドラインは考え直すべきだ!」と強気な発言まで。。。炭水化物大好きな私は死んでしまうのか、、、(笑)

 

中身を読んでみると、うーん。。。これは、関係ないな!とスルーしていたんです。

 

ところがどっこい。最近になって、「糖質制限の有用性が示された!」というネットの記事がたくさん見られるようになりました。(大きな声では言えませんが、中には論文の解釈が間違っているものもあります。)

これはいけない!ということで、今回は論文を読んでいこうかと思います!

 

※ 炭水化物と糖質は細かくいうと少し違います。(炭水化物=糖質+食物繊維)

英語の文献のほとんどは Low Carbohydrate diet(低炭水化物食)です。しかし、日本ではほぼ同じ意味ながらしばしば糖質制限食と呼ばれます。

ごちゃごちゃになってしまいますが、基本的には同じものとおもってください。

 

この研究は、Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) studyというとてもとても大規模なコホート研究のデータを使用しています。

参加者は13万人以上で、中央値で約7年追跡したデータを解析しています。

 

国としては以下の3つのグループに分けられています。

高所得国:カナダ、スウェーデンUAE

中所得国:アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、イラン、マレーシア、パレスチナ自治区ポーランド南アフリカ、トルコ

低所得国:バングラデシュ、インド、パキスタンジンバブエ

 

食事データは、複数回のFFQを用いた24時間食事思い出し法にて調査しています。

 

アウトカムは、総死亡率、主要な心血管イベント、心筋梗塞脳卒中、心血管疾患死亡率、非心血管疾患死亡率で、炭水化物と脂質及びその質(飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)、たんぱく質のエネルギー比で5分位に分け、Cox frailtyモデルでハザード比を算出しています。

 

では、問題の結果はどうだったのでしょうか?

フォローアップ期間中に、5796名の死亡と、4784の主要な心血管イベントを観察しました。

 

炭水化物の摂取増加は総死亡リスクと有意に関連していました。(最も高炭水化物なグループ(炭水化物エネルギー比77.2%)は最も低炭水化物なグループ(炭水化物エネルギー比46.4%)と比較して、HR (95%CI) 1.28 (1.12-1.46))炭水化物エネルギー比が最も少ない46.4%のグループと比較すると、炭水化物エネルギー比が67.7%程度のグループから有意なリスク上昇が見られています。さらに、炭水化物エネルギー比が増加すると、ハザード比が上昇する傾向性も示唆されました。

同様の解析は、心血管疾患イベントもしくはその死亡率をアウトカムとした際には有意な関連性は示しませんでした。

 

では、脂質ではどうだったのでしょう?

総死亡率をアウトカムとした場合、脂質摂取量が多いほど、死亡リスクの低下と有意に関連していました。(それぞれ、摂取量が最も少ないグループと比べた摂取量が最も多いグループのハザード比は、総脂質 0.77 (0.67-0.92)、飽和脂肪酸 0.86(0.76-0.99)、一価不飽和脂肪酸 0.81 (0.71-0.92)、多価不飽和脂肪酸 0.80 (0.71-0.89))

脳卒中をアウトカムとした場合、飽和脂肪酸摂取量が多いほど、リスクは低下しました。HR 0.79 (0.64-0.98)

 

この結果だけを見ると、脂質をたくさん食べて(特に飽和脂肪酸)、炭水化物を制限した方が、長生きできそうですね(笑)

 

しかし、中身を読んでみると、少し様子が違っています。以下に少しまとめてみました。

 

糖質制限を勧める根拠にはならない(特に日本人では)

まず、全てをまとめた結果では炭水化物エネルギー比67.7%以上でリスクの増加を認めています。つまり、日本人の食事摂取基準の目標量である50~65%や、糖尿病の食品交換表で用いている50~60%では有意なリスク上昇はありません。これは、単純に炭水化物の食べすぎが問題であるというだけで、普通に摂取する分には問題ありません。さらに、日本人と同じく高炭水化物だけど低脂質なアジア諸国(主食は米)でのサブ解析では、炭水化物を79.4%食べても有意なリスク上昇にはつながっていませんでした。(アジア諸国では食べ過ぎても関係ない)

 

対象者のincomeが多様すぎる

みなさんも読んでいて気になりませんでしたか?そうなんです。国が多様すぎるんです。同じ日本でも食習慣の違いがあるように、世界ではもっと食習慣や生活環境が多様です。人数が多いため、母集団に近い地球規模の研究ですが、日本人に一般化は難しいように感じます。脂質をたくさんとるほど長生きという通常考えにくい結果はこれらの影響でしょう。脂質を最も多く摂取しているグループはエネルギー比35.3%です。しかし、脂質を最も少なく摂取しているグループではエネルギー比で10.6%しか摂取できていません。つまり、食事の影響以外に、貧しさも関連しているのではないかと考えられます。実際、メインの結果ではenergy intakeで調整しているものの、incomeでは調整していません。(考察の中に、incomeで調整したけど、ほぼ同じ結果だったよと書いてありました。)貧しくて、芋や穀物しかたべられないような人たちは、医療を受けられなかったり、衛生的な問題から残念ながら長生きしにくいですよね。

 

食事調査に用いたFFQは先進国でしか妥当性の検討ができていないようですね。

芋を主食とする途上国では様々な種類の芋を食べますし、、、

 

まぁ、しっかりと論文を読んでみると、糖質制限を後押しするものではないかなという気がします。ネットで糖質制限の記事を書いている先生などは、たいてい糖質制限商品のプロデュースなどを行っていますし、糖質制限の本をたくさん出しています。糖質制限が流行るほど彼らは儲かるのです。

 

炭水化物制限と糖尿病、体重減少、血糖コントロールに関しては一定の見解は得られていません。しかし、飽和脂肪酸の摂取量増加は糖尿病リスクの増加と関連しています。食事の決定は個人の自由ですが、何事も極端なのはよくないかと思います。

 

この記事は、ただただ栄養学を学んでいる大学院生が書いたものなので、必ずしも合っているとは限りません。間違ってたらコメントで教えてくださいね。

 

では今日はこれくらいで。

またほかの話も今後できたらと思います。