What is a healthy diet ?

大学院に通う管理栄養士が美味しい楽しい話をゆるゆると更新します。

低炭水化物食(ロカボ)で健康になれるのか。

かなりゆるやかな更新になっています。

修士論文も終わったのでまずはロカボについてかいてみようかと思います。

 

先日、ネットでこんな記事を見かけました。

https://twitter.com/Urocortin/status/953426985631465472

ローソンが健康支援のための店舗を展開するようで、「ロカボで健康、始めませんか?」と書かれています。ロカボ商品を摂取することで健康になれるような書き方ですね。。。私はロカボで健康になれる可能性は低いと考えています。

 

そこで今回は、ロカボで健康になれるのかについて少しだけ批判的に書きたいと思います。

 

※今回の場合は低炭水化物食について長期的な検討を行っている論文に関してレビューします。医学研究ではRCT(ランダム化比較試験)がエビデンスレベルが高く、重要視されます。しかし、栄養学は薬とは違うため、短い期間では身体に大きな影響を及ぼさない事も多いのです。特に今回のように、健康になれるかを争点とする場合、短期的な血糖値の変化を知るより、長期的にどのような食生活を送ると糖尿病になりやすいのかを知った方が良いと思います。特に低炭水化物食が身体に及ぼす影響は短期間と長期間で大きく異なりますので、ご注意ください。

 

① 低炭水化物食にすると食事はどのように変わるのか?

低炭水化物食は単純に炭水化物だけを減らすわけではありません。エネルギー摂取量を維持するためには炭水化物摂取量を減らした分、脂質とたんぱく質で補わなければいけません。A to Z studyというトライアルでは、低炭水化物食であるAtkins食と低脂質食であるOrnish食を8週間実施した際の栄養素の比較を行っています(1)。

その結果、低炭水化物食では、たんぱく質と脂質摂取量が大きく増加していました。

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② 低炭水化物高たんぱく質食では心血管疾患リスクを増加させる??

スウェーデン女性を平均15.7年間フォローアップしたSwedish Women's Lifestyle and Health Cohortでは、LCHP(低炭水化物高タンパク質)スコアを作成して心血管疾患発生率比との関連を調べています(2)。

 

LCHPスコアとは、炭水化物摂取量を10分位に分け、摂取量が多いグループから1点、2点、、、と加点していきます。同様にたんぱく質摂取量をグループ分けし、たんぱく質摂取量が少ないグループから1点、2点、、、と加点していき、点数を合計しスコアを作成します。これにより、点数が高い人ほど炭水化物摂取量が少なく、たんぱく質摂取量が多くなります。

 

その結果、LCHPスコアが6以下の人と比較して16以上の人では、心血管疾患リスクが60%も高くなっていました。(下の図を参照)

 

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いくつかの解説では、この研究のLimitationとして、食事記録がベースライン時の1回であることと、食塩摂取量の調整が不足している事を上げていますが、Cox比例ハザードモデルで解析するには、ベースライン時のデータのみを使うしかありませんし、FFQではきちんと食塩摂取量を把握できませんので、この研究に限ったLimitationではないかなと思います。

 

 

③ 低炭水化物食で死亡リスクが上がる??

次の論文は、アメリカの大規模コホート研究であるNHSとHPFSのデータを用いたものです。NHSとHPFSは医療従事者を対象としたコホート研究で、今回の論文ではベースライン時に34-75歳の男女129,716人を解析しています(3)。

 

この論文でも同じように低炭水化物スコアを作成し、動物性食品と植物性食品を考慮したスコアも作成しています。

 

その結果、最も低炭水化物スコアが低い群と比較して、最も低炭水化物スコアが高い場合(低炭水化物な食生活を送っている人の場合)、総死亡リスクが高いことが分かりました。またこの影響は特に動物性食品を多く摂るような低炭水化物食の場合、心血管疾患、がん死亡率のリスクも増加させていました。

逆に植物性食品を多く食べるような低炭水化物食の場合、総死亡、心血管疾患リスクは低下しました。

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多くの場合、低炭水化物食にする場合は、肉をどれだけ摂っても良いとされますので、植物性食品が多い場合の人はベジタリアンの人などごく限られた人であると考えられます。

 

上記の研究を含め、人を対象とした研究で、5年以上追跡をした研究を解析したメタ解析では、低炭水化物食により、総死亡リスクが31%増加していました(4)。

 

 

 

④ 糖尿病(妊娠糖尿病)リスクが増加する??

アメリカで実施されたHPFS(男性医療従事者を対象としたコホート研究)では、ベースライン時に健康な40-75歳の男性40,475人を約20年追跡しており、その結果、低炭水化物食と糖尿病リスクの増加との関連が示されました(5)。

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この論文では、赤身肉、加工肉もしくは動物性脂質もしくはヘム鉄で調整すると低炭水化物食と糖尿病リスクが有意でなくなることから、低炭水化物食による増加する動物性食品を問題視しています。

 

 

 

 

同様の検討を女性で行っていますが女性では関連は見られませんでした(6)。

しかし、NHSIIのデータを用いた解析では妊娠前の食事が低炭水化物食であった場合、妊娠糖尿病のリスク増加との関連が示されています(7)。

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さらに、同じNHSIIのデータを用いて妊娠糖尿病の人が、妊娠中に低炭水化物食の食事パターンであった場合、2型糖尿病リスクの増加と関連していました(8)。

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考察

 長期的な目線で見ると、低炭水化物の食事パターンであった場合、死亡率の増加や疾患リスクの増加が認められています。ロカボにして糖尿病リスクが上がるとは意外だと思います。しかし、ここまで見てきてわかると思いますが、炭水化物と言うより動物性食品の摂取量が増加することが原因だと考えられます。最近ではたんぱく質摂取量の増加により寿命が短くなるという報告もあり、炭水化物の代わりに肉をいくらでも食べてよいというのは危険な可能性があります。このような論文があるにも関わらず、テレビや書籍ではあたかもロカボが健康的だと謳われ、その多くで炭水化物を制限して肉をたくさん食べようと伝えられていませんか??

 

ところで、これらを見て炭水化物をたくさん食べれば健康になれると考えるのは早計ですよ。日本人を対象としたJPHCでは女性で1日に米飯を420g(茶わん3杯程度)以上食べる人で、糖尿病リスクが増加しています(9)。食事はバランスよく食べて、適度に運動を行う事が一番だと思います。

 

今回はコホート研究だけでしたが、トライアルや、ロカボの減量効果、糖尿病治療に低炭水化物食はどうなのか?などもご紹介できたらと思います。

 

なにかお気づきの点などありましたら、教えてくださいね。それではまた。。。

 

参考文献

1. Am J Clin Nutr. 2010 Aug;92(2):304-12.

2. BMJ 2012; 344 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.e4026

3. Ann Intern Med. 2010 Sep 7; 153(5): 289–298.

4. PLoS ONE 8(1): e55030.

5. Am J Clin Nutr. 2011 Apr;93(4):844-50.

6. Am J Clin Nutr. 2008 Feb;87(2):339-46.

7. Am J Clin Nutr. 2014 Jun;99(6):1378-84.

8. Diabetes Care. 2016 Jan;39(1):43-9.

9. Am J Clin Nutr. 2010 Dec;92(6):1468-77.